STORY
先に少し書きましたが、HOT CAKEはライブより先にレコーディングから活動を始めました。都内のリハーサルスタジオで曲作りを行っていく中で、「無理にでもレコーディングしないと永遠にやらない気がする」的な理由で11月の下旬にレコーディングを行うことを決定します。
じゃあどこでレコーディングしますか?といった話になるんですが、メンバーは3人全員それぞれの音楽活動の中で、様々なレコーディングを経験しています。
さらにその中でも梅津と安田は完全なる機材オタクです。オタクが道楽で始めたバンドにおいて、妥協は許されません。儲けになんかならない中で、満足できない音質のレコードを作るなんてバカげています。
ただ録音とは、費やしたお金が音質に比例する世界です。そしてなんのバックアップもなく、まして活動すらしていないバンドがレコーディングに出せる費用はもちろん平均以下です。
そこでHOT CAKEは考えました。「高級な音」をめざすのは諦めよう!と。綺麗でくっきり、いわゆるハイファイな音像は金がモノを言う世界です。でも「高い音」と「いい音」は別物です。低予算で、多少チープだろうとかっこいい音や気持ちいい音は沢山存在します。
幸いにも梅津はローファイな機材を集めてかれこれ20年...なベテランオタクでしたので、今回のコンセプトにはもってこいでした。上の写真は、本人が「俺の全て」と評した、彼の集大成です。
写真中央にそびえる、梅津所有の「マルチトラックレコーダー」でアナログテープ(現在はほとんど使用されていない化石)を使ってドラムとベースの音を録音すること。それが今回のレコーディングのメインテーマになりました。
そしてもう一人のオタク、安田にはどうしても譲れないことがひとつだけありました。それは、広い空間でドラムの音を録ること。それでしか得られない解放的なニュアンスがあるのです。広いレコーディングスタジオは都内にいくらでもありますが、広い分値段は高くつきます。HOT CAKEの予算的にはNGです。
普段ならどこだろうとプレイしますが、HOT CAKEはあくまで趣味なので諦めきれません。
苦節の末に考え出した方法が、「梅津の地元である山形県長井市の体育館でレコーディングする」です。体育館は皆さん知っての通り、とっても広いです。
HOT CAKEは前身バンド、すいみん不足の時に長井市の体育館でライブを行っています。
その体育館を梅津の地元パワーでキープしてもらうことに成功したのです!
マイクは知り合いのエンジニアさんから、ドラムセットは爆弾ジョニーのタイチくんから、そして機材車も友人のバンドから借りることで、なんとか実現可能な予算でのレコーディングに漕ぎ着けました。
めでたくHOT CAKEは山形県でのレコーディング合宿を実地することになったのですが、こんなに大変だったことは人生で1〜2度しかないというレベルの大変さでした。
まずはじめに車、ドラム、マイク、梅津機材の全てが別の場所に置かれています。それらを梅津と安田がかき集めることで丸1日。安田はその夜漫画喫茶に泊まります。
翌早朝に山形へ向けて出発。その日は体育館に全ての機材をセッティングします。翌日、みおちゃんが山形入りし、レコーディング開始。梅津ママが自家製の山形名物、芋煮を差し入れしてくれました。準備は大変でしたが、レコーディングは至って順調です。
最終日は体育館が使用できないので教室に移動。これがキツかったです。階段で重い機材を移動させ、レコーディングが終了したら即撤去して東京に出発。東京に夜12時に到着したのち機材を返却(しかも一箇所、手違いにより翌日にもう一度行くハメに...)。極限の状態の中、安田は家に帰れず漫画喫茶泊(二回目)です。翌日に全ての機材と車を返却し、ようやくリズム録り終了です。
その後、レコーディングはリハーサルスタジオでの歌録りやギターのダビング作業になります。メンバーのスケジュールがなかなか合わず、この工程に半年近くを費やしてしまいました。そして2019年の夏に安田が自宅でキーボード、効果音などのダビング作業を行います。この段階で録音がようやく終了。
2019~2020年の冬に安田によるミキシング、それを経て外部でのマスタリングが終了しようやく「Yume」は完成しました。安田がミキシングを始めてまだ一年も経っていない状況で行われたので、「Yume」でいろいろと実験しながらミキシングを学びました。ですので、とても時間がかかりました。
苦労を重ねまくった上でようやく完成した「Yume」。HOT CAKEの頭の中を、音にすることに成功しました(安田)。